Webによる情報格差の是正は自己責任を増大させる

Appleは9月5日にiPhoneを200ドル値下げすることを発表したが、engadgetが伝えているように、翌6日には既にiPhoneを購入した人に対しては100ドルのギフトカードを提供することを発表した。値下げに対する事実上の保障である。

WIRED VISION「iPhone大幅値下げ」でApple社が犯した4つのミスでは、Appleが保障に踏み切らざるを得なかった理由として次の4点を挙げている。

  1. 気配りの欠如
  2. 早すぎたタイミング
  3. 大きすぎる値下げ金額
  4. AT&T社に対する明らかな軽視

いろいろ書いてあるが、やはり一番大きいのは発売開始から66日後に599ドルから399ドルに200ドル(33%)も値段が下がったというところだろう。このペースが進めば4ヶ月後には無料になる。いくらデジモノの陳腐化が早いとは言え、半年で減価償却が完了するとはとても思えない。

また、使い終わった後だろうと、買ってから1年後だろうと、なんでも返品できるアメリカというお国柄も大きく影響していると思われる。日本において消費者が早すぎる値下げに苦情を言ったところで、保障が認められることは稀だろう。そもそも新モデルが出れば半年前の最新機種が0円や1円で手に入る日本独自の販売形態も価格の下落率で言えば、iPhoneと変わらない。それでも誰かが苦情を言ったとか、販売店が値下げ分を保障したという話は聞かない。

個人的には今回のAppleの対応はやり過ぎな感がある。消費者は購買時において対価に見合う価値があると判断したからそれだけの金額を払ったのであり、取引はそこで完結していると考えるべきだ。

昔は販売側と消費者に大きな情報格差があったため、消費者が的確な価値判断を行えないという状況があった。そのため、消費者側の権利を販売者に比べて大きく認める商習慣が形成されてきた。しかし、現在ではWebが発達し、消費者は商品の購買に当たり多くの情報を予め得ることができる。情報格差は一昔前に比べて格段に小さくなっているのである。

今年の1月という極めて早い時期に米iSuppliはiPhoneのハードウェアレポートを公開している。これによれば、8Gバイトのメモリを搭載した599ドルのiPhoneの部品代は264.85ドルで、総製造原価は280.83ドル、利益率はなんと50%を超える。これを受けてiSuppliのディレクターは「彼らはあとで価格を下げてくるだろう。50%ものマージンを長期にわたって得ることは想像に難い」と述べ、価格値下げの可能性を示唆している。

消費者は商品の購入前にその製造原価を知ることができ、値下げの可能性を知ることができたのだ。今はまだ情報リテラシの高い人しかこうした情報を得ることはできないかもしれないが、そのうちコンピュータが適切な支援をしてくれるようになるだろう。そうなったときに、現状のように消費者の権利が厚く保護される状況が続くことが適切であるとは思えない。

Webによる情報格差の是正は、中長期的には消費者保護の緩和をもたらすだろう。情報処理能力が今以上に重要となり、個々の判断が持つ意味が今以上に大きくなる。Webの普及は自己責任の占める割合を増大させるのだ。