リーディング能力などあり得ない

はてな匿名ダイアリーの『リーディング能力のせいで正確な視力が測れません』というエントリが話題になっている。他人が集中している情報が流れ込んでくるリーディング能力を持っているという告白なのだが、コメントを読むと結構信じている(信じたい)人がいるようだ。

このエントリは全くの嘘か、本人の勘違いのどちらかだ。後者の場合は、実際には視力的には1.5程度あるにもかかわらず、脳意識下には見えているという情報が上がって来ていないということになる。実際には見えているので、視覚で得られる情報は理解できるという具合で、本人にとっては見えていないはずなのにその情報が頭の中にあってさぞ不思議な感じなのだろう。逆に視線が通らない情報は獲得できないはずだ。たとえば直接は見えないところにある視力検査表を第三者に見てもらい、それをリーディングできるか試してみればよい。絶対リーディングはできない。彼は視力が悪いと思っているだけで、実際には彼が書いているように、「自分の脳が視覚情報を正しく認識しているには違いないからだ」。

他人の思考が読めるというリーディング能力を考える。思考過程により脳内電位が変位し、かすかな電磁場の揺れが発生する。この場が優れたリーディング能力を持つエスパーの脳内のアンテナに捉えられる。エスパーの脳内に何らかの化学的、電気的反応を誘発させる必要があるのだ。ところがエスパーの脳が、世界中に存在するあらゆるアンテナとも異なる構造をしていない限り、その反応を引き起こす信号は身の回りのラジオやテレビなどの電磁波受信機にキャッチされなければおかしい。

なぜ、今まで一度もESPの信号が受信されたことがないのだろう。遠く離れた所にいる人の脳内に変化を及ぼすのだから、なにがしかの力を有しているはずだが、深宇宙からの微弱な電磁波を検出できる、人間の脳に比べて桁違いの能力を有する受信機でも一切そうした信号が受信されていないというのはなぜだろうか。

思考を伝える電磁波は弱すぎて現存する受信機では検出できないという反論もあるだろう。しかし、脳に変化を誘発させる以上電子を振動させたり、原子のスピンを促したりするエネルギーはあるはずで、それが検出されないというのは考えられない。ESPが電磁波によって実現されているとすると、脳には検出できて、アンテナには検出できない何か上手い言い訳を考えねばならない。

ここからは高校の物理の話になるが、自然界に存在する力は次の4つである。

横に記載した数字は相対的な強さで強い力は重力の1040倍もの力を有している。普段慣れ親しんでいる重力は力の中では極めて弱いものだ。このうち、離れた所に作用する力は電磁力と重力の2つで、ESPを実現するためにはこのどちらかを利用するしかない。電磁波は駄目だとすると、重力はどうだろうか。

たとえば、2個の電子を考える。この電子は負の電荷を持っているので近づけようとすると、電磁力による斥力が発生し近づけることができない。たとえば、片方の電子の上におもりを置いて斥力を相殺しようとすると、どれだけの重さのおもりを置けばよいか。答えは実に50億トン! たった2つの電子の斥力を打ち消すために東京中の高層ビルを全部一つの電子の上に乗せてもまだ足りないのである。

これだけ力の差があると、重力を用いて通信をしようとするとちょっと太ったぐらいでは駄目そうだ。アンテナも超巨大な高精度のものが必要で、脳程度ではとても太刀打ちできそうにない。仮に未発見の第五の力があったとしても、それは重力よりは微弱な力であるはず(そうでなければ、科学者が今まで気がついていない理由がない)で、それで通信をするというのは現実的ではない。

リーディング能力、ESP、テレパシーなどを実現しようとすると、突拍子もない物理学が必要だ。少なくとも、他人の思考がダイレクトに脳に伝わるような能力はあり得ない。あるとしたら、他人の仕草やちょっとした反応から解を引き出す、推理力(コールドリーディング)ぐらいだろう。

参考文献