もし、ぼくの身に何か起こったら、君がぼくの人生のすべてだったということを覚えていてほしい。

7年前の2001年9月11日、ワールドトレードセンターを襲ったアメリ同時多発テロは多くの人命を奪った。この言葉は、このテロで命を落とした一人の男性が最後に最愛の妻に告げた言葉である。『いい言葉ねっと』において、長らく上位をキープしていることから知っている人も多いと思うが、まだこの言葉に出会っていない人に是非紹介したい。

If something happens to me, I want you to know that you made my life.

もし、ぼくの身に何か起こったら、君がぼくの人生のすべてだったということを覚えていてほしい。

http://www.post44.org/misc/rescorla.html

元陸軍退役軍人のリック・レスコーラ(Rick Rescorla)は、危機管理能力に長けた人物で、米証券会社モルガン・スタンレーの保安課の統括責任者をしていた。彼は、緊急避難の伝道師といわれるほどの熱意で避難訓練を行っており、熱心を通り越してエキセントリックなほどだった。彼の信条は7つのPで、それはProper Prior Planning and Preparation Prevents Poor Performance(適切な事前計画と準備が酷い結果になることを防ぐ)だった。

2001年9月11日午前8時46分に最初の飛行機がワールドトレードセンターの北タワーに激突した時、リックは44階のオフィスにいた。彼は第一棟(北タワー)の71階から火事の一報を電話で受けると、即座に第五棟の1,000人に加え、第二棟(南タワー)の2,700人のモルガン・スタンレー従業員にも即座に非難するよう命じた*1。彼は拡声器を使い人々の避難を誘導しながら44階から72階まで非常階段を上っていった。

10階の階段でリックが人々を元気づけているのを見た彼の友人がリックに逃げるよう促したが、「できるだけ早くみんなを避難させないといけないんだ」リックは答えたという。彼はまったく慌てていなかった。彼は自分の命よりも仲間の命を優先したのだ。彼は逃げ遅れた人を探すために戻ると本社に電話し、そしてまた上層階に戻って行った。

一方、リックの妻スーザンは家でユナイテッドの航空機がワールドトレードセンターに突っ込む様子を流すテレビ放送を見て血の気を失っていた。しばらくして、彼女の電話が鳴った。リックからだった。
「どうか泣かないで欲しい」リックは言った。「ぼくは仲間を助けなければならない」
泣きじゃくるスーザンにリックは告げた。
もし、ぼくの身に何か起こったら、君がぼくの人生のすべてだったということを覚えていてほしい
そして──電話は切れた。

まもなく、スーザンは南タワーが崩壊する様子をテレビで見ることになる。彼女は思わず通りに飛び出して、リックの携帯に電話をかけ続けた。そして、録音された彼の最後のメッセージを再び聞いてその場に泣き崩れた。

リックと部下の2名は帰ってこなかった。しかし、ビルが倒壊したとき、モルガンスタンレーの従業員で犠牲になったのはあと3人に過ぎなかった。あの同時多発テロにおいてモルガン・スタンレーの南タワーの総勢2,700人の従業員の内、犠牲者が僅か6名に留まった事実は、この未曾有の災害において僅かにもたらされた奇跡であった。リックが作成した避難計画と日頃の訓練、そして事故当日の彼の献身的な貢献がこの奇跡を実現したのである。

自分の人生のすべてだと言える大事な人が身近にいる人がどれだけいるだろう。そして、自分の身に危険が迫っているときに、自分の大事な人に、あなたが自分の人生のすべてであったと伝えられる人がどれだけいるだろう。望むならば、自分は誰かにとってそうでありたいし、そんな誰かを好きになりたい。

*1:北タワーは攻撃8:46/崩壊10:28、南タワーは攻撃9:02/崩壊9:59。北タワー攻撃時においては南タワーに被害は無かったが、この時点で即座に避難を選択したリックの決断は正しかった。最初の攻撃時に南タワーから避難しなかった多くの人々が命を落とすことになる。