スタッフの多大な努力によって支えられている超能力捜査番組
嘘を垂れ流すTV番組のせいで超能力者が行方不明の人を探し出したり、未解決の事件を解決したりすると本気で信じている人が結構いるらしい。あんなのは大嘘である。たまに行方不明の人が見つかったりするが、見つけるのは番組が雇った探偵であり、TV局はさもそれが超能力によって見つかったかのように演出するのだ。超能力で見つかったことにしてしまうのである。それを喜んで見ている視聴者は、実に痛々しい。
「超能力番組を10倍楽しむ本」は、子供向けに書かれた本ながら、そうした超能力番組の嘘を一つ一つ丁寧に暴いた良書である。もっとも似非超能力者どもの手口が毎回似たり寄ったりで読んでると飽きてくるのが玉に瑕だ。もうちょっとバラエティ豊かなら良かったのだが。この本では、全米一と言われる透視能力者、ジョー・マクモニーグルの透視が超能力番組内で見事当たったように演出される様子を丁寧に検証している。ここではその概要を紹介したい。詳細が気になった人や他の超能力番組の嘘が知りたい人には一読をおすすめする。
彼の経歴は次の通りだ。
- アメリカが極秘裏に行っていた超能力の軍事応用研究スターゲート計画に参画。退役後、FBI捜査官として、難事件を数多く解決。
- 1979年のイラン革命政権によるアメリカ大使館占拠事件では、アメリカ国防省にいながら、9900kmも離れたアメリカ大使館内部を透視、人質の位置、武装した兵士の配置、地雷の位置などを言い当て、この情報を元に64人の人質全員が無事解放された。
- 他多数の伝説。
ところが、まずもってこの人はFBIとは何の関係もない。自伝の題が「FBI超能力捜査官 ジョー・マクモニーグル」となっているが、このFBI超能力捜査官というのは日本出版社が勝手に付けた題名であり、自伝のどこにも彼がFBI捜査官だという話は出てこない。
また、1979年のアメリカ大使館占拠事件ではデルタフォースによる救出作戦が計画されたが、トラブルが続出し大使館にたどり着くことさえ出来ずに、作戦は失敗している。結局、事件発生から444日後、イラン政府によって人質が解放されるが、このプロセスにマクモニーグルは一切関与していない。なぜ彼の手柄になっているのか不明である。
他にもベトナム戦争時代に爆発を事前に予知、仲間とともに移動し難を逃れたと言う話や、スターゲートプロジェクトにおいて透視のテストを受け、見事合格した話、1981年イタリアでドジャー准将が監禁された際に、監禁場所を透視、その情報に基づきドジャー准将が無事救出された話、1979年国家安全保障局からの依頼によりソ連の工場内部を透視した話などが番組の再現フィルムで語られているが、そんな話はもともと信憑性のない彼の自伝からさらに脚色され、誇張された嘘八百である(前掲書では、自伝の内容との詳細な比較がなされている)。バラエティ番組の超能力者の紹介ほど信用できないものは無い。なんと言っても第三者による検証のない自己PR*1をさらに番組独自の解釈で脚色した捏造VTRなのだ。まともに見るだけ時間の無駄である。
さて、イカサマ霊能師やインチキ占い師の手口まとめを読んだ読者の方なら分かるだろうが、彼の手口は事前調査による推理、ホットリーディングと、マルチプルアウトな透視を数多くするコールドリーディングの組み合わせである。彼が透視をした後、探偵がターゲットを発見、後はTVスタッフが必死に彼の透視を当たったように解釈する方法を模索するわけだ。
2004年9月に放送された『THEスペシャルFBI超能力捜査官 第7弾』における彼の透視を検証してみると次の興味深い事実が明らかになる。
- ナレーションでは彼の透視した、ターゲットのKさんの住居への道順を示した絵が6枚提示される。ところが6枚目のイラストには8という通し番号が振ってあり、少なくとも番組で取り上げられなかった絵が2枚は存在したことが分かる。使いようのない外れた絵はカットされているのである。
- マクモニーグルの東京の西、鉄道が交差している駅を示すイラストから、スタッフは三島市周辺と断定するが、三島駅では鉄道は交差しておらず、三島駅を中心に東海道新幹線と東海道線が東西に走り、三島駅から南に伊豆箱根鉄道駿豆線が伸びている。交差している都市なら神奈川県松田市、岐阜県岐阜市、瀬戸市、京都市、大阪府新大阪駅、天王寺駅、和歌山市、奈良県橿原市、兵庫県姫路市などがあり、彼の地図が示す鉄道が交差した駅という情報から三島駅は絶対出てこない。スタッフは探偵が見つけたKさんの所在地から逆算して三島駅を割り出したのである。
- マクモニーグルは交差した駅から南に1駅進んだ所にKさんが住んでいると透視していた。スタッフは三島駅から伊豆鉄道を南下、いくつもの駅を通り過ぎる。番組内では最終的な駅名は伏せられていたが、前掲書における実地検分から、番組内でターゲットが住んでいた駅は伊豆長岡駅と判明した。三島駅から実に8駅も先の伊豆の国市である。繰り返しになるが彼の透視内容から1駅目の三島広小路駅ならともかく、8駅目の伊豆長岡駅に辿り着くことはあり得ない。スタッフは探偵が見つけたKさんの所在地から逆算して伊豆長岡駅を割り出したのである。
- マクモニーグルはターゲットが住んでいる駅の特徴として、駅を出てすぐ右に店、すぐ左には駐輪場があるとした。日本中どこの駅にも店や駐輪場ぐらいあるだろう。マルチプルアウトな何の情報量も無い典型的な透視である。番組内ではさもマクモニーグルの透視が当たったかのように伊豆長岡駅の周囲の様子を紹介したが、実際の伊豆長岡駅では駐輪場は駅から数十メートル離れたところに位置しており、すぐ左には土産物屋がある。ここも大ハズレだ。
- マクモニーグルはこの街には正面が半円形をした病院があると言い、それがKさんが通っている病院だという。絵と実際にあった病院を比べると、正面が半円形というのは当たっているように見えるが、背面側が透視と実物では大きく異なる。また、マクモニーグルは商店街のアーケードを透視するが、残念ながら伊豆長岡駅付近にはアーケード街はなかった。番組では週一度開催される朝市を取材し、朝市のテントが彼の透視に現れたものだと紹介したが、こじつけもいいところである。ここもハズレだ。
- マクモニーグルは、朝市から大通りから斜めに左折した後、1回右折、1回左折したところにKさんの家があると透視し、番組ではさもその通りに進んだところに見事Kさんの家が見つかったように放映されていたが、後の検証によれば実際には、左折、左折、左折、右折と進まなければ目的地に到達しなかった。スタッフは通ったはずの交差点をVTRからカットしたり、わざわざ狭い道を通って回り道をしてマクモニーグルの透視に合わせて目的地に着こうと努力をした痕跡が伺えた。繰り返しになるが彼の透視内容からKさんの家にたどり着くことなどあり得ない。スタッフは探偵が見つけたKさんの所在地から逆算してさも透視が当たったかのように編集可能なルートを見つけ出したのである。
このように彼の透視は最初から最後まで大ハズレだったといえる。にもかかわらず、Kさんが見つかったのは、優秀な探偵の努力の賜であり、彼の超能力のおかげでは断じてない。彼の超能力を信じていれば、Kさんは絶対見つからなかったことは確実だ。行方不明者を捜す時には、超能力者ではなく、探偵を雇うのが賢いのは言うまでもない。超能力番組は、いい加減な透視をする超能力者と、なんとかそれを当たっているかのように見せようとするスタッフの涙ぐましい努力によって支えられているのである。次にこのような番組を見る時には、どうか陰から支えるスタッフの人知れぬ努力に思いを馳せてほしい。
参考文献
*1:自伝には日本のテレビ番組に出た様子も掲載されており、前掲書において当時のVTRと見比べて信憑性が検証されている。検証はその番組に関する記載の部分だけだが、その部分だけでも外れた透視が当たったことにされていたり、全く事実と異なる記載が複数見つかった。他の部分の信憑性も似たようなものだろう。彼の記憶は彼の都合のいいように歪められており、自伝の内容をそのまま鵜呑みにするのは危険である。