顧客満足を徹底的に優先する青梅慶友病院に見る病院のカタチ

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青梅慶友病院は入院するのに2年半近く待つ老人専門病院である。極めて高い顧客満足を達成しており、高い収益力を保っている。全国の病院全体の7割が赤字とされている中で、これだけの収益を達成するには秘密がある。嶋口充輝著「仕組み革新の時代―新しいマーケティング・パラダイムを求めて」では、マーケティングの観点からその秘密を明らかにしているので、以下に要旨をまとめておく。

病院はサービス業である

患者さま

青梅慶友病院は「病院はサービス業」であり「患者はお客様」であると言う認識をスタッフに徹底している。それを如実に表すのが患者の呼称であり、青梅慶友病院では患者は「患者さま」と呼ばれる。呼称をこのように変えることで、スタッフに患者第一という認識を徹底させることに成功している。

全員評価システム

青梅慶友病院では「病院はサービス業」であるという信念に基づき、スタッフ間の全員評価システムを導入している。このシステムでは全スタッフが自分以外の全員を「非常に良い」から「非常に悪い」の5段階で評価するものであり、常に顧客である患者に対して献身的に対応しているかという目でチェックされる。こうして顧客を優先しないスタッフは淘汰される仕組みとなっている。

顧客満足の追求と革新

フルサービス給食システム

従来の病院の食事は効率化の観点から夕方の4時に夕食が出たり、決して美味しくない決まったメニューしかないというのが定番であった。しかし青梅慶友病院では、「患者はお客様」という観点から、完全に患者の要望にあわせたメニューを一人一人に用意している。そもそも食事は患者にとっても大きな楽しみであり、美味しいものが食べられる方が元気も出るというものだ。

一人一任対応

青梅慶友病院では、一人の患者に対して専門の担当を一人つけ、基本的にその担当者がすべてのサービスを行う。担当者は自分の親のように患者に接し、患者はすべてをその担当者に任せることが出来る。こうすることで担当者と患者の間に強い信頼関係を形成することが可能になる。患者との間に信頼関係が生まれれば、患者は気兼ねなく担当者に相談することが出来るし、担当者は患者の容態をつぶさに観察することができるため、従来の分業制の病院に比べて、極めて顧客満足の高いサービスを提供できる。

100万円予算

青梅慶友病院では、全体14病棟の各病棟に毎月100万円の予算を与え、それを患者の喜びのために使い切ることを奨励する。80歳を超えるお年寄りのニーズは通常若いスタッフが把握することは困難であり、従来の老人ホームなどではお年寄りに童謡を歌わせるなどの的外れな対応がなされがちだが、青梅慶友病院では潤沢な予算を元手に試行錯誤を繰り返すことで、確実に顧客満足の向上を図っている。実際、お年寄り相手に毎月100万円を使い切ろうと思えば大変で、日々患者を喜ばすためにはどうすればよいかをスタッフが考えることになる。たとえば、ペット持ち込み実験、居酒屋模擬店など従来の病院では考えられなかったサービスが次々と導入されている。

自由な面会時間

病院の面会時間は厳密に定められているのが普通だが、青梅慶友病院では内部効率を一部犠牲にして面会時間を自由化している。家族とのふれあいが患者に与える好影響を期待してのことだが、面会時間だけ愛想良く振る舞うといった従来の病院にありがちな悪癖を排除すると言う効果もあるようだ。

臭いのない病院

病院には薬品・消毒薬の臭いが付き物であり、多くの病院はそれが当然と考えている。しかし、青梅慶友病院は「病院はサービス業」と言う観点から、一流ホテルのように臭いがないことが本来の姿であると考え、こまめな処理、掃除を徹底することで、臭いの除去を図っている。顧客満足の視点に立ち、従来当然と考えられてきた対応を見直す姿勢が徹底していると言えるだろう。

自律と適応

いかに患者がお客様とはいえ、患者の言うことを無批判に聞いてばかりでは、患者が怠けることとなり、結果的に患者のためにならない。青梅慶友病院では、たとえ患者がいやがっても1日2〜3時間はベッドから離れてもらい、寝たきりになるのを防ぐ。多少無理をしてもベッドから離れて立ち歩いて、時には着替えやオシャレもしてもらう。短期的なコスト面から見れば、患者は寝ておいてもらった方が手間がかからなくて良いのかもしれないが、長期的に見れば、立ち歩くことにより患者の活力がよみがえり、症状の快復につながるのである。

青梅慶友病院では「目はかけるが、手はかけない」と言う長期的満足に向けた対応を行っており、可能なことは患者本人に行ってもらうようにしている。スタッフが代わりにやってしまうのは簡単だが、そうすると患者の自助能力が急激に低下してしまう。多少手間や時間がかかっても、患者が自分で行うのを横でじっと見守り、何か問題が起こりそうになったときに即座にサポートできるように控えるのである。単なるトイレに3時間といった極めて長い拘束時間がかかることもあるが、リハビリの一環と考えればこの対応も自然なものだ。

定額料金制

青梅慶友病院の費用は基本的に定額制であり、仮にどれだけ薬や治療に経費がかかっても定額以上は請求されない。これにより、患者が余分の出費を懸念して治療を拒否したりすることもなくなる。一方、病院側も無駄な経費の削減に努力し、出来高払いの病院のように高価な薬を大量に使い、オムツをたくさん使い、患者をベッドに縛り付け、カテーテルやチューブを突っ込むといった対応をしなくなる。入院費用は2006年10月現在、個室で1日あたり約20,000円、4人部屋(右上写真)では約11,000円〜7,500円となっている。

病院のカタチ

結果的に青梅慶友病院の成果は見事で、患者と家族への高い顧客満足の革新によって、入院まで2年半近く待たなければならない千客万来の病院となっている。また、全員評価システムの導入により、患者に献身的なスタッフのみが残り、従業員の満足度も極めて高い。平均して2割ほどスタッフの人件費は高くなるが、3割増しで働くといい、高い労働生産性を誇っている。病院の経営は健全そのもので、経常利益率は他の老人病医院と比べて二倍以上になるという。

これらの成果は、自らの使命や理念を明確にし、事業をサービス業と規定し、サービス業とは何をすべきかの方向を顧客満足追求の革新策として打ち出し、それに合わせて組織・体制・システムの対応と、経営資源の選択・集中をするという首尾一貫した事業の仕組みによって可能になっている。

青梅慶友病院は、病院が本来あるべきカタチを我々に示してくれる。こうした説明を聞けば多少コストがかかったとしても青梅慶友病院に入院したい/させたいと考える人は大勢いるだろう。筆者もそう思うのだが、実際同病院の紹介ルートは口コミが90%を占め異彩を放っているという。ただ、入院に2年半も待たなければならないというのは何とも残念だ。青梅慶友病院は顧客満足を徹底した病院システムの成功例であり、全国に青梅慶友病院に続く、「病院はサービス業」である基本に返った顧客満足優先の病院が続々と誕生する事を期待したい。

仕組み革新の時代―新しいマーケティング・パラダイムを求めて

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