いつまで経っても普及しない電子書籍

読売新聞が伝えたところによれば、この1ヶ月の間に本を1冊も読まなかった人は前回調査より3ポイント増え、52%に上ったという。特に年齢が高くなるにつれて本を読まなくなる傾向が現れており、1冊も本を読まなかった人の割合は、70歳以上で66%、60代51%、40代45%、30代44%、20代43%となっている。

 本を読まなかった理由(複数回答)は、「時間がなかった」が49%(前年比4ポイント増)と最も多く、次いで「本を読まなくても困らない」20%、「読みたい本がなかった」19%――などの順となった。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6100/news/20071027it12.htm

筆者はおそらく1月あたり軽い本から重い本まであわせて10冊程度は本を読んでいると思う。1月に1冊も本を読まない月があるなんて信じがたく、時間がないという人はよほど忙しい日々を送っているのだろう。70歳以上の高齢者は基本的に暇なはずで本を読む時間がなかったというのは当てはまりそうもないが、本を読まなくても困らない、読みたい本がないという理由は納得できる。老い先短ければ知識欲よりも軽いエンタテインメントを好む人もいるだろうし、そうした本は巷に溢れているが年齢が邪魔して手を出しにくいという面もあるだろう(いい年してあんな本を読んでいる等)。結局、誰の目もはばからずサービスを受けることができるテレビに流れていくのである。高齢者向けの娯楽本がもっとあっても良いと思う。読みたい本のジャンルとして、「健康・医療・福祉・年金」が25%を占めたようだが、本に求めるのはこんな堅い話題ばかりではないはずだ。

もし、高年齢者の本離れがニーズの不一致によって起こっているのであれば、インターネットによる配本はその差を埋めるツールとなりうる。ただし残念なことに現状のPCのインタフェースが入力・出力とも問題となる。高齢者でPC操作に習熟した人は少数派だし、ディスプレイの細かい文字を読むことが困難な人は多いだろう。高コントラストの電子ペーパーを採用した電子ブック端末が登場し、ユーザニーズに合わせて毎週自動的に配本するようなサービスが普及すれば状況は一変するかもしれない。

希望としては著者名やシリーズ名などで指定可能で、毎週条件に適合する新刊およびソーシャルフィルタリング手法により推薦される本が自動的に端末にダウンロードされると良い。それらの本は所定のページまでは無料で読むことができ、それ以上読む場合にのみ課金される。気に入った本が無ければ放っておけば料金はかからず、気に入った本があれば、数ページ読んでみて面白そうならば購入すればよい。初心者用と上級者用でインタフェースを分離し、高齢者にも利用しやすいインタフェースとすることが重要だ。活字を読むのが困難な人向けに読み上げ機能があっても良いかもしれない。

こうしたサービスは何十年も前から想起されていると言うのに、いつまで経っても実現される気配がない。電子書籍数は急激に増えているがまだ一部に留まり、とてもリアルな本を置き換えるまでには至らない。たとえば、日本最大の電子書籍販売サイトである電子書店パピレスの取扱総数は7万冊強。幅広いニーズに答えるためにはまだ1桁か2桁は足りないだろう。また、これらはPCで読むことを前提としたPDFやXMDFフォーマットによる配信であり利用するにはPCが不可欠だ。

電子ブック端末で読むことを前提としたサイトとしては、ソニーLIBRIe向けのTimebook Town、松下ΣBook向けのシグマブックがあるが、ラインナップはさらに少ない上に、一旦PCでダウンロードした後、USBケーブル、もしくはメモリカードを経由して電子ブック端末に移さねばならない。電子ブックコンテンツにはDRMが掛けられており指定の端末でしか読むことができない。極めて使い勝手が悪く、これでは普及する方がおかしい。老人が使うなんてもっての他だ。技術や端末が未熟な点もあるが、サービスの形そのものがユーザの利便性を置き去りにしている気がする。もっと使う側の身になってサービス形態を考え直すべきだろう。

携帯小説とかが流行りつつある昨今、電子書籍がいよいよ普及するような兆しはある。筆者の部屋の本棚が溢れる前に是非普及してほしいものだ。