詐欺師を臆面も無くゴールデンに出演させるテレビ局

J-CASTによれば、テレビ朝日は詐欺師が霊視と主張する嘘八百を披露するオーラの泉をゴールデンタイム枠に移すことを決定したそうだ。同番組では毎回ゲストを迎え、スピリチュアルカウンセラー江原啓之がゲストの「オーラ」を霊視し、歌手の美輪明宏とともにゲストにアドバイスするという。まったく正気の沙汰ではない。

上記の2つのエントリで指摘したように、江原啓之の霊視は番組スタッフぐるみの事前調査に基づくイカサマであり、典型的な詐欺師の手口であるホットリーディング(hot reading)を利用したものであることが明らかになっている。『あるある大辞典』の捏造問題でテレビ放送の信頼性に対して疑問符がつけられているこの時期に、詐欺師を前面に出すテレビ局の厚顔無恥には恐れ入った。

菊池聡著『超常現象の心理学―人はなぜオカルトにひかれるのか (平凡社新書)』(1999年刊)では、心理学者の菊池聡氏がワイドショー番組の「最終決着、霊視は可能か! 霊能者vs心理学者」というコーナーで霊能者のK氏と対決した様子が記載されている。何年も前から同じようなことを繰り返しているということが良く分かるので一部を抜粋して紹介したい(強調はLM-7による。また横書きへの変更に従い漢数字の表記を修正)。

対決ではゲストの三瀬氏が予め人間ドックで詳しい診断を受け、その診断書をふまえて作られた20問の○×問題の正答率を調べるという形で行われた。ここでは対決の席で初めて霊能者K氏に問題が示されたので、彼にホットリーディングを行う機会は無かった。さらに、ここではもう一人のゲストである妹尾氏に対照実験としてカンで回答をしてもらっている。このあたりさすが菊池氏、抜かりが無い。

「よろしいですか」と司会者。うなずくK氏。
「では第一問、三瀬氏は近視である」
即座にK氏は、「いえ、近視の気はありません。ですが左は白内障の傾向があるようで…」と同意をもとめるように話しかけた。
そこで私はストップをかけた。
「だめです。あくまでも○か×かどちらかで答えてください。三瀬さんも応じないで。会話なしでお願いします

ホットリーディングを封じられた詐欺師は、コールドリーディング(cold reading)の活用に走る。白内障の、その傾向なんて、あるとも言える無いとも言えるマルチプルアウト(multiple out)な表現だ。同意を求めるように話しかけ、会話からより多くの情報を引き出そうとするのも、コールドリーディングの典型的な手段だ。ところがそれを菊池氏に封じられると、あわれ詐欺師はとたんに手も足も出なくなる。

これがK氏には意外だったらしい。いつものようにやればいいとでも思っていたようで、やや狼狽した雰囲気が見て取れた
「よろしいですね」と司会者が念を押した。K氏としては、ここで引き下がることはできない。信者も家族も見ているのだ。
「×でよろしいですね」と司会者が確かめ、ボードの一問目に×をマジックで書き込んだ。あとで正解を覆うテープをはがせば当たり外れは一目瞭然となる。

マルチプルアウトな回答を許さない○か×かの二択は、詐欺師にとってはとても嫌なものだ。しかもそれが記録にとどめられてあとから正答率を正確に算出されると言うのも困る。コールドリーディングではショットガンニング(Shotgunning)と呼ばれる手法が良く使われるが、これは相手に大量の情報を話し、そのうちいくつかは当たるため、相手の反応を見ながら最初の主張を修正して、すべてが当たったかのように錯覚させるテクニックである。ところが、会話を禁じられては、その手法も使えない。すべてはカンに委ねられるわけだ。こんな調子で、「気管支炎を患ったことがある」「肝機能が低下している」「耳は高音が聞き取りにくい」と問題が続く。最後の問題が終わり、いよいよ決着のときが来る。

「では、正解を見てみましょう」
緊張のピークである。正解を隠すテープを上からはがしていく。一問目ははずれた。二問目ははずれ、三問目は……。見守っていたスタッフから溜息が漏れた。
二〇問中正解はわずか七問。偶然レベルすら下回る出来だ。K氏の顔は心なしか青ざめて見える。スタジオ中が重苦しい雰囲気に静まり返った。そこへ対照実験の妹尾氏が、
「あの……。私十二問できたんですけど
これがとどめであった。

ゴールデンタイムで同じ検証を徹底的にやって、詐欺師を完膚なきまでに叩き潰し、世にはびこるビリーバーに更正の機会を与え、生まれ変わりを信じて自殺する中学生をなくすのであればテレビ朝日を賞賛したい。「ジャーナリスト宣言」を自粛せざるを得ない朝日グループには期待するだけ無駄か。