家電フルカスタマイズの時代

ヤマダ電機が家電メーカーなど納入業者に対し、ヘルパーと呼ばれる販売員を不当に派遣させていたとして公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いで立ち入り調査したことは記憶に新しいが、今度はヨドバシカメラが、契約関係がなく、人件費も負担していない家電メーカー販売員「ヘルパー」を、閉店後の棚卸しや店内改装に従事させていたことが分かった。

 大阪や東京などの大型店舗では、残業が翌朝に及ぶケースもあった。厚生労働省によると、棚卸しなどは本来、量販店の従業員が行うべき業務で、ヘルパーを従事させることは、職業安定法違反(労働者供給事業の禁止)にあたる恐れが強いという。

 ヘルパーの就労を巡っては、業界最大手のヤマダ電機ミドリ電化が労働局から同法違反の疑いで是正指導を受け、ヤマダ電機独占禁止法違反(優越的地位の乱用)の疑いで公正取引委員会の立ち入り検査も受けている。閉店後の業務にまでヘルパーを従事させていた実態が明らかになったのは、今回が初めて。

http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_07052213.cfm

これに対し、ヨドバシカメラは、「(ヘルパーがそれぞれ)自社メーカー商品の展示数や在庫数を確保するため行っているもので、弊社の在庫管理の事務を代行しているものではない」とし、職安法違反にはあたらないとの見解を示したというが、複数メーカーの証言など客観的証拠がある中で、よくぞこんなコメントをいけしゃあしゃあと上場企業が出すものだと呆れてしまった。

朝まで残業断れず…ヨドバシのヘルパー証言には、生々しい実態をヘルパーが明かしている。

 棚卸しでの残業は「終電まで」というのが、暗黙の了解になっていた。だが、店から「帰っていいよ」と言われることはほとんどなかった。「帰っていいですか」と切り出せず、終電後、自腹を切ってサウナで仮眠し、朝から、また出勤したという人もいる。

http://osaka.yomiuri.co.jp/eco_news/20070522ke08.htm

10時以降は深夜業の割り増し手当を払わないといけないが、残業代も含め人件費はすべてメーカー負担であり、ヘルパーを受ける小売り業者はタダで使える労働力としか見ていない。

 あるメーカーは、ヨドバシカメラ本社との間で、棚卸しにはヘルパーを従事させないとする覚書を結んでいた。ところが、店から直接、協力要請を受けて応じたヘルパーがいた。

 その1人は「店の意に沿わず、辞めさせられたヘルパーを何人も見てきた。メーカーの顔をつぶすことにもなるし、『やってくれ』と言われれば断れない」と話した。メーカー関係者も「実情を知っていながら、黙認してきた」と証言した。

http://osaka.yomiuri.co.jp/eco_news/20070522ke08.htm

メーカー側としては、ヨドバシカメラのような強い力のある小売業者の機嫌を損ねると大事なので、違法性を知りつつも黙認せざるを得ない状況にあったようだ。営業利益率数パーセントという薄利多売な日本の家電メーカーにとって、仮にヨドバシカメラの機嫌を損ねて商品を推薦してもらえなくなる、扱ってもらえなくなるなんてことになると、赤字に転落することは目に見えている。無理を言われても聞かざるを得ない理由がある。守られない覚書なんて単なる紙切れである。

大規模小売店に販売が集中するようになり、それに従って大規模小売店の力が増加している。小売業者のコンプライアンス意識が低ければ、取引上の優越的な地位を利用して不当行為をする「優越的地位の乱用」が生じやすい土壌があるわけだ。

ヨドバシカメラと言えば、秋葉原に開店したヨドバシAkibaにおけるメーカー別展示が有名である。ヨドバシAkibaの4階のAV機器フロアおよび5階の家電フロアは、メーカー別に切り分けられた展示となっており、いわば、メーカーショールームが集結したような構成となっている。メーカー指定で購入したい客には良い展示方法だが、業界関係者の間では、「メーカーからの協賛金がとりやすいため」という見方も出ている。展示規模にあわせて協賛金を得るという仕掛けができるからだ。実際、売り場を見てみると、松下、シャープ、ソニーと言ったメーカーがエスカレータ付近に大規模な売り場を構えており、アピール度やアクセス性にすぐれている一方、その他のメーカーの売り場はどうしても地味な印象だ。メーカーが売り場を確保するために多額の協賛金を払い、自社の売り場に無料でヘルパーを動員していることは想像に難くない。

インターネットが普及しても、PCなどの例外を除いてメーカー各社が直販に乗り出す例は少ない。仮にメーカー直販で小売店よりも安い値段で販売したとすると、小売店の反発を招くため、メーカー直販の値段は高めに設定せざるを得ない。PCではその付加価値をBTOによるカスタマイズや直販でしか手に入らない特別なパーツなどによって設定しているが、家電においてそこまでのカスタマイズは出来ない場合が多い。将来的にはPCや携帯電話のようにカスタマイズ性を付加し、たとえば個々の部屋にあった色調を持つ家電をメーカー直販する事も出来るようになるだろうが、それでもサポートや設置の問題があるし、高額家電になると実際に見て買いたいというニーズが高まるため、メーカー直販の比率を上げることはなかなか困難だろう。

それがたとえ困難な道のりであったとしても、メーカー側としては公正取引委員会のサポートを得て現状の改善をはかるとともに、インターネットを通じた販売チャネルの拡充を進めていくこととなるだろう。数年後には家電もフルカスタマイズ可能な時代が到来するかも知れない。そこには顧客のニーズへの対応、脱コモディティ化による利益率の向上という面とともに、小売業者への依存からの脱却という家電メーカーの強い意志があるのだ。